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預金不安はリーマンショックを上回る

2023.5.24

3月初旬以降にシルバーゲート銀行、シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行が相次いで破綻し、
また、5月に入ると、資産規模で全米14位のファーストパブリック銀行も破綻しました。
これにより、米国内で預金に対する不安が急速に高まっています。

その一方、それとは対照的に3月までのデータでは日本の預金は増えています。
米国とは異なり、日本では預金に対する安心感があるということです。

 

日本では、2002年以降の不良債権処理によって、金融システム全体で体質は健全化され、
さらに金融機関は国債取引や、個人・法人向けの融資によって相応の利鞘を稼いできた経験があります。

ただ、米国では経営不安が取り沙汰される中央銀行が増えています。
今後、SNSを介して預金への不安心理は急速に高まり、さらなる預金引き出しが進むことが懸念されています。それが現実となれば、米国の金融システムは1980年代のようにかなり不安定な局面を迎える可能性も想定できるでしょう。

 

米国の調査会社である”ギャラップ”は、5月4日に「米国民の約半分が銀行に預けたお金を心配している」と題したリポートを発表しました。この調査は、シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が破綻した後の4月3日から25日に実施されたものです。
この調査の中で、”銀行などに預けているお金の安全性についてどの程度心配しているか”という質問に対して、
・非常に心配している:19%
・少し心配している:29%
・あまり心配はしていない:30%
・まったく心配していない:20%
なお、無回答者は集計から除外されております。

全体として預金への不安を抱く人は48%という結果となっておりました。
この水準はリーマンショック直後のギャラップの調査結果45%を上回っており、
預金不安がリーマンショックを上回っていることが分かりました。

 

そもそも、今回の一連の銀行破綻は、多くの米国中堅銀行が個人などから集めた預金を、長期の投融資に回していました。その多くはITスタートアップ企業に投資するファンドや商業用不動産など、流動性の低いものでした。その結果、シリコンバレー銀行の破綻、他の中堅銀行の経営不安が高まったことにより預金を引き出す個人、法人が増えたということです。

米国では、連邦預金保険公社(FDIC)が1口座(個人/法人)あたり25万ドル(約3400万円)までの預金を保護しています。さらに、3月にはイエレン財務長官が「必要に応じて預金全額保護も検討する」と述べています。

それでも、預金に対する不安が高まっています。特に、現代ではSNSから瞬く間に人々の不安などが拡散し、糞臭心理が高まりやすくなったことは大きい。5月1日にはファーストパブリック銀行が破綻しました。
2日にはカリフォルニア州地盤のパックウエスト・バンコープなどの地銀株が大きく下がりました。
ギャラップの調査時点と比較した場合、預金への不安を強める米国民は一段と増えている可能性があります。

 

米国民の預金不安が高まる一方で、日本では預金が依然として増えています。
全国銀行業界が公表する「全国銀行 預金貸出金速報」によると、2023年3月、110ある全国の銀行の総預金は前年同月比で3.3%増えています。
・都市銀行(5行)3.7%増
・地方銀行(62行)2.0%増
・第2地方銀行(37行)2.2%増
・信託銀行(4行)5.5%増

また信用金庫業界に関して、信用中央金庫が発表した「2023年3月末の信用金庫の預金・貸出金動向(速報)」によると全国254の信用金庫の預金残高は前年同月比0.8%増加となりました。

米国では中堅銀行から預金を引き出し、JPモルガンなどの大手行や、相対的に利回りの高い「マネー・マーケット・ファンド(MMF)」、あるいはアップルがサービスを開始した預金口座などに預金を移す方が増えています。一部報道によると、サービス開始から最初の4日間でアップル預金口座に9億9000万ドル(約1360億円)の資金が流入したそうです。

 

日本では資金の移動は起きていないことから、日米の預金の安全性に対する社会心理が異なっていると言えますね。

 

その理由の一つとして、日米経済の差が大きく影響しています。
リーマンショック後、米国では超低金利環境の長期化観測が高まりました。
GAFAやスタートアップ企業なども、IT先端分野での成長期待も大きく押し上げました。超低金利環境と過剰な成長期待に支えられ、中堅銀行はIT先端企業や商業用不動産などへ投融資を積み増したのです。
それは景気が良い間は大きな問題にはなりませんでした。

しかし、いつまでも良い状況が続くとは限りません。
2022年3月以降は連邦準備制度理事会(FRB)が急速に利上げを行い、融資債権などの価値が急速に下落。その中で、シリコンバレー銀行などは破綻し、米国の中堅銀行の経営に対する懸念は急速に高まったのです。

 

日本の経済は長期にわたって停滞しています。国内の銀行は国債の短期取引や住宅ローンなどによって利ザヤを稼ぐ状況が続いています。日米銀行セクターにおけるリスクテイクの水準感の差はかなり大きいです。
そのため、米国の中堅銀行の経営不安上昇が日本の預金不安を高めるには至っていないのでしょう。

今後、日本でも銀行破綻が起こる可能性は0%ではありません。
リスクを少しでも抑えたいのであれば、資産を分散させておくことが必須でしょう。

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